知床事故後の「海の安全対策」は進んだか 専門家が指摘する課題
北海道・知床半島沖で2022年、遊覧船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没し、26人が死亡・行方不明となった事故で、業務上過失致死罪に問われた運航会社社長の桂田精一被告(62)に対する判決が17日、釧路地裁で言い渡される。事故から4年。海の安全対策はどこまで進み、再発防止のために残された課題は何か。海難事故に詳しい若林伸和・神戸大教授に聞いた。 利益を優先し、十分な安全対策を行わない運航事業者の存在を浮き彫りにしました。同時にずさんな運航を見逃してしまうような船舶の安全対策上の不備も発覚しました。事業者の責任を問うことと同時に、国をはじめ社会全体で再発防止に取り組み「海の安全」を確保する必要性も投げかけました。 また「旅客船は危険なもの」というイメージを多くの国民に与え、観光船の利用をためらう状況を生み出したと言えます。安全対策と同時に、旅客船事業の持続可能性をどう支えるかという課題も出てきています。 運航事業者によるずさんな運営を防ぐため、国土交通省は、安全統括管理者や運航管理者について、試験を通過した有資格者のなかから選ぶことを義務づけました。それまでは必ずしも資格が必要ではなく、知床の事故では船に関する十分な知識や経験もない運航会社の社長が務めていました。資格制度を設けたことは一歩前進と言えるでしょう。 義務化そのものは必要な措置です。しかし、船から乗り移るためにスライダー付きのいかだに改良したことで、重量が大幅に増し、取り扱いが難しくなりました。サイズも大きくなり、事故が起きた時に、手際よく水面に投下するための難易度が上がりました。 使いこなすための訓練も定期的に行われているか疑わしいです。いかだは一度膨らませてしまうと、数十万円もの費用をかけてメーカーに頼み、折りたたんでもらう必要があります。 いかだを導入する際のコストも1隻あたり数百万円に上昇しました。国の補助金の対象ではあるものの、事業者の負担は大きく、わざわざ改良せずに従来品を確実に運用できるようにすれば足りたのではないかと思います。 ――カズワンは事故の3日前に船舶検査を受けていましたが、浸水の原因となったハッチの不具合が見落とされました。事故後、検査を行う日本小型船舶検査機構(JCI)は、ハッチの外観に問題がなくても開閉試験をするよう基準を改めるなど検査制度を強化しました。 今回は偶然ハッチの不具合が原因でしたが、ハッチ以外にも問題が生じる可能性があります。現在の見直しだけでは対症療法的で根本的な解決にはならないと考えます。 本質的な問題は、JCIの検査員の人数、経験、知識がそれぞれ不足しているということです。そもそもJCIは全国で約30万隻もの小型船舶を150人程度で検査しており、手が足りていないように見えます。小型船舶の運航経験や船舶関連の知識も乏しい検査員もいると言わざるを得ません。 不特定多数の人を乗せる旅客船では、大型船舶(20トン以上)と同様に、国が直接、厳格な検査を担うことも検討するべきではないでしょうか。
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