映画の推し事:3回泣かされた!モフモフだけじゃない 切なくていとおしい「ひつじ探偵団」

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毎日新聞の独自取材と蓄積したコンテンツを活用し、奥行きのある映画情報を発信します。ファンを含む全ての映画関係者にエールを送ります。 可愛らしいひつじたちが、事件解決のために奮闘するモフモフ映画!のはずが、こんなに泣かされるとは誰が予想できただろう。臆病でおバカなひつじたちが結束して、殺人事件の真相を追う映画「ひつじ探偵団」。 イギリスの田舎町、優しい羊飼いのジョージのもとで暮らすひつじたち。毎晩、ジョージは探偵小説を読み聞かせるが、ひつじが理解するわけもなく……と思いきや、ひつじたちは物語を理解し、犯人の予想に明け暮れていた。 そんなある日、ジョージが死体で発見され、事故だと信じられないひつじたちは、愛する飼い主の無念を晴らすために結束して捜査を開始する。 やがてジョージに47億円の資産があったことが発覚し、浮かび上がった町の犯人候補たち。探偵小説で得た知識をフル活用するひつじたちは、果たして殺人犯を見つけることができるのか? 最初はとんちき映画の予感しなかったこの作品。開始30分で殺される羊飼いのジョージを、なんとヒュー・ジャックマンが演じている。 予告を見た時は「ヒュー・ジャックマン!? なんで??」と、思わず声に出してしまった。私の友人は「ヒュー・ジャックマン、お金無いのかな……?」と要らぬ心配までしていた(失礼な話だ)。 しかしそのヒュー・ジャックマンが、インタビュー映像で「脚本を25ページ読んだところで“この映画に出る”と決めた」と明かしている。大スターお墨付きの作品だ。まあ、とりあえず笑えて、ひつじが可愛くて癒やされたらいいな~程度の期待で劇場に向かったが、こんなに泣かされるとは。3回泣いた。 まさかひつじに泣かされるとは!と思ったし、まさかひつじの方が頭が切れるなんて!とも思わされるほど、笑えて感動して、ミステリー作品としても秀逸な映画だった。 私のひつじに関する知識は皆無で、時々ヤギとの区別が付かなくなるのは結構あるあるだと思っている。そのため、この作品で知ったひつじの特性がいくつかある。 ひつじは群れで行動する臆病な動物だとは知っていたが、冬生まれのひつじは群れから孤立しやすいらしい。ひつじは通常春生まれで、冬生まれは異端児として扱われる。作中でも、冬生まれの小さいひつじが登場するが、やはり群れから疎外された存在だった。事件解決の大きな手がかりになる証言を主張しても、「冬生まれだから」という理由で誰も耳を貸してくれない。 “世界で最も賢いひつじ”と自他ともに認める群れのリーダーであるリリーは、特に冬生まれのひつじに対して強い偏見があったが、一匹オオカミ(羊)タイプのセバスチャンと対話を重ねることで、聡明だと思っていた自分の考え方に疑問を持つようになる。 それを見た私は、「ひつじでさえ、自分の固定観念を疑い、省みることができるのに……」と、情けない人間の面々を思い浮かべながら、なんだか切なくなってしまった。 私がヨーロッパに暮らしていた時は、アジア人差別を受けるたびに「たまたま肌が白く生まれたからって偉そうに!」と心の中で悪態をついていた。所詮、“たまたま”春に生まれてきただけのひつじなのだ。そこにはなんの作為も無い。その理不尽さは、人間社会の縮図みたいに生々しい。 モフモフしたひつじたちは終始可愛らしいけれど、その柔らかな毛並みの奥には、「自分は何を根拠に他人を判断しているのか」という、鋭い問いが描かれていた。 もうひとつ、この映画でひつじたちの特性として描かれていたのは、みんなで記憶を喪失できるという能力。忘れたくなるような悲しい出来事が起きた時に、群れのみんなで三つカウントすれば忘れられるのだ。 実際のひつじの記憶能力は意外と高く、これは映画の中で描かれるフィクションなのだが、この演出がまた私を泣かせてくるんだよ。 ひつじたちは今まで、家族や仲間を亡くした時は記憶を消して、悲しみから逃避していた。飼い主のジョージが殺された時も、悲しみに耐えきれず記憶を消そうとしたが、無念を晴らす前に彼のことを忘れることなんかできない!と踏みとどまる。 この後も、記憶喪失能力で「楽になりたい」と思わせる数々の困難がひつじたちに立ちはだかるのだが、手放すのは惜しい思い出の価値に気付いていく。苦しみを抱え続けるのはつらい。私も過去の失敗や別れを思い出して、三つ数えたら全部無かったことになればいいのにと思う。 でも、この作品は忘却を完全な悪としては描かない。むしろ、それは弱さではなく、生き延びるための知恵として存在している。だからこそ、ひつじたちが“忘れない”ことを選ぶ瞬間が、より切実に胸へ迫ってくる。 ジョージに愛され、愛した証しとして、悲しみごと彼との時間を抱きしめると決めたひつじたちのけなげな姿に、私は映画館でひつじさながら泣いて(鳴いて)しまった。 最初は子供向けに作られた映画だと思っていたが、まさに老若男女が楽しめ、笑いあり涙ありのストーリーで、本格的な謎解きが堪能できるという、めっちゃいいとこどりな「ひつじ探偵団」。 果たして愛する飼い主を殺した犯人を見つけられるのか? 飼い主を失ったひつじたちが迎える結末は? 見終わった頃には、もうジンギスカンもラムシャブも食べられなくなるほど、ひつじたちがいとおしく感じるはずだ。(青山波月)

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